ダンボルギーニ1号機の横でポーズを取る今野梱包の今野英樹社長＝宮城県女川町で2022年10月28日午後5時5分、百武信幸撮影

　イタリアの高級スポーツカーに似せた実物大の段ボール製模型「ダンボルギーニ」。その技術が間近に見られることで人気を博していた宮城県女川町のショールームが3日、閉店する。東日本大震災で被災後も、ユーモアに全力を投じる遊び心は「復興の象徴」となり、「陛下」の足を止めたことも。ただ、震災から11年半が過ぎ、今野英樹社長（50）は「役割を終えた」として“後続”に道を譲ることにした。展示から約7年、ダンボルギーニが駆け抜けた道とは――。【百武信幸】 【写真】ダンボルギーニのフロントガラスには… 　低く、流れるような車体に、どぎついピンク色。今にも動きそうな、それでいて段ボールらしい凹凸感。ミラーやタイヤのホイールの細部に技が光る。制作したのは、女川の隣、石巻市桃生（ものう）町の梱包（こんぽう）会社「今野梱包」の社員たち。3代目社長の今野さんのアイデアを、仕事の合間を縫い約2年かけて形にした技術の結晶だ。 　今野さんが制作を思い立ったきっかけは、震災後の地元の若者たちの姿だった。都市部への人口流出は加速する一方。ただ、彼らに聞けば「東京に行けば夢が見られるかも」という漠然とした思いだけで巣立っていた。「若者が地元で夢を描けないのは、俺ら大人の責任じゃないか」。地元の可能性を見直してもらうために、あっと驚くインパクトのあるものを作ろうと考え、浮かんだのが幼い頃から憧れていたスーパーカーだった。 　◇最初は16分の1から 　とはいえ身近に「ランボルギーニ」の実車があるわけでもない。ラジコンを買って見本にし、16分の1、8分の1……と徐々に大きくしていった。手応えを得て2014年11月、とうとう2分の1サイズの自信作が完成。自慢しようと長男に画像を送ると、そのままツイッターに投稿されて拡散し「バズった」（今野さん）。 　それ以前から、石巻高の同級生だった須田善明・女川町長に「力を貸してくれ」と誘われていたこともあり、15年12月、女川駅前に開業した商業施設「シーパルピーア女川」に実寸大を展示することに。色は地元・桃生町の桃をイメージし、ピンクにした。「色を失った地域に明るい色を取り戻そう」との思いも込めた。 　あまりの評判に「そろそろ本家から怒られる」と身構えていた今野さん。だが、シーパルピーア女川と同時にオープンした自社のショールーム「Konpo’s　Factory」の開店時には、正規販売店「ランボルギーニ麻布店」から本物の1台も駆けつけて“共演”するなど、「黙認」の形でお墨付きをもらった。 　◇思いがけない来客 　16年3月には、思いがけないことが起こった。女川町を視察に訪れた天皇、皇后両陛下（現上皇ご夫妻）が、予定にはない形で店に立ち寄られたのだ。店頭にいた今野さんが両陛下に「段ボールの可能性に挑戦し、スーパーカーという形で技術を見ていただいています」と話すと「見てみたいですね」と皇后さま。店内で「わあっ」と感嘆し、手袋を外して、そっとなでたという。 　「あの時は焦った」と今野さん。実は「ダンボルギーニ」は「おさわり厳禁」で、フロントガラス部分にも注意を呼びかける紙を置いていた。皇后さまはほとんど触ってはいないものの、「気づけば謝らせてしまう」と、紙の置いてある側にさっと回り込み、紙を隠したという。須田町長から「今世紀最大のファインプレー」とほめられたのも、今は懐かしい思い出だ。 　◇3号機は実車 　実は、今野さんにとっての「ダンボルギーニ」は1号機から3号機まである。1号機は女川に展示されている1台。2号機は「本家」を見本に、より精巧に作り、各地のイベントなどで展示してきた。そして、3号機は長女との約束から生まれた実車だ。 　今野さんは震災当時、4人の子と両親、祖母の家族9人暮らし。内陸にある桃生町の自宅は津波の被害はなかったものの、地盤沈下の影響で住めなくなった。仮設住宅で暮らしていた頃、中学生だった長女に「高校生になったら1回ぐらいスーパーカーで送り迎えしてやっから」と話した。それから数年後の16年末。高校卒業間近の長女から「あの約束は実現しなさそうだね」と言われた言葉が、今野さんの胸に刺さった。 　1台数千万円はする実物のランボルギーニ。震災後、再起を図るため大きな借金をしていたこともあり、断られるのを前提に正規店にローンの申請をすると、「審査通りました」とまさかの連絡。「道が開けたなら、通らなきゃ男じゃないだろ」と今野さんは己を奮い立たせ、長女を除く家族と相談し、頭金をかき集めた。 　17年3月の卒業式の日。玄関を出てきた長女は、目の前の光景に驚き、泣き崩れた。長女を乗せて走った真っ白な車体のランボルギーニ・アヴェンタドールは、後に「ダンボルギーニ」に寄せピンク色に染められ、3号機となった。今野さんは「最近じゃ子どもらは『目立ち過ぎる』って、あまり乗りたがらないんですよ」と苦笑する。 　◇ディズニー社から依頼も 　「ダンボルギーニ」の技術は大きな評判を呼んだ。ウォルト・ディズニー社から依頼され、映画「ローグ・ワン　スター・ウォーズ・ストーリー」に登場する高さ5メートルの歩行型輸送機「AT―ACT」をイベント用に作り、宝塚歌劇団の舞台を手がけたことも。今野さんは「田舎でも都市部と渡り合えるんだ、この地域でも夢が実現できるんだ、ということを若い世代にも示せたかな」と語る。 　展示作品だけではなく、自身も震災で大きな被害を受けた経験から、避難所のパーティションや、防災を考えるために地域の地形を再現したジオラマ、コロナ禍で広まったリモートワーク用の机、障害の有無に関係なく楽しめる巨大野球盤など、強化段ボールの特性を生かした品々を作り続けている。「とんがらないと刺さらない。やりたいことは全部やれ、そしてあきらめるな」。若者にも自身にもそう言い聞かせる。 　◇いつまでも「震災後」ではない 　そんな今野さんが店を閉めることにしたのは、「そろそろ震災は思い出として振り返るものになってもいいのでは」との思いからだ。震災発生から11年半が過ぎ、「『もはや戦後ではない』と言われ始めたのも戦後11年ほど。『復興の象徴』がずっと女川にあってはいけないんじゃないか。いつまでも『震災後』ではなく、町の人たちも次のフェーズに進もうとしている中で、幕を引くべきだと考えた」という。 　「表舞台は譲り、次の世代の下支えをしていけたら。でもレジェンドにはなりたくない。フロンティアのままで」と今野さん。ダンボルギーニに触発された若者たちが新たなモノを生み出し、道を切り開いていくことを期待する。町に2号機を寄贈することを検討しているといい「ダンボルギーニは永遠に不滅です」。これからも、ダンボルギーニは走り続ける。

ランボルギーニカウンタック!!! 小学生くらいの時にスーパーカーが流行りましたね!!! 写真のダンボルギーニ　カッコいいです!!!

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