インボイスは「国が消費税を取りっぱぐれないようにする制度」
そもそも「インボイス制度」とは何でしょうか? 消費税は原則として、顧客から預かった分と、自分で払った分の差額(売上税額-仕入税額)を納税します。ですがこれまでは、誰が誰にいくら払ったのか、あいまいな面がありました。 インボイス制度は、消費税を、誰から/誰が、いくら受け取った/払ったのかを明確にすることによって、国が消費税の取りっぱぐれがないようにする、という目的です。国は、制度の導入によって2480億円程度の税収増を見込んでいます。 制度スタート後は、領収書(インボイス)に、各事業者の「インボイス番号」や税額などが明記されます。インボイス形式でない領収書の消費税は、(移行措置はありますが)売上税額から差し引く(税額控除)ことができなくなります。
免税事業者はぶっちゃけ、どうすればいいの?
免税事業者への影響は? 制度スタート後は、免税事業者の取引先において、差引くことができない消費税分の負担が増えることになります。 もし、免税事業者がインボイス発行事業者になると、新たに消費税を支払う(課税事業者に変わる)ことになり、税負担が増えます。一方で、取引先は引き続き消費税額控除ができるため、今までと変わらず取引先の税負担は増えません。 免税事業者はどう対応するのが正解でしょうか? 免税のままでいていいのか、インボイス発行事業者になるべきか……。 ビジネススタイルや、取引先との関係次第でしょう。 免税事業者を続ける場合は、自分の消費税負担や事務負担は増えませんが、取引先の税負担が増えます。取引先にとっては実質値上げです。 ただ、付加価値が高い仕事、どうしてもその人にやってほしい仕事をしている場合は、実質値上げになっても発注は続くでしょうから、免税事業者のままで良いと思います。 一方で、価格競争が激しい事業で、取引先が免税事業者とインボイス発行事業者どちらにでも頼める場合は、同じ値段ならインボイス事業者に発注するほうが得になりますから、免税事業者は仕事が減ることもあるでしょう。 業種によっても違います。コンシューマー相手の商売ならあまり気にしなくてよいでしょうし、BtoBなら、取引先はインボイス対応を気にするでしょう。
焦らずに、様子を見て対応を
取引先の担当者に、ぶっちゃけベースで「実際のところ、どうですか? 免税のままでも大丈夫ですか?」と聞けるといいですね。「インボイスに対応してくれないなら、取引を切りますよ」と明確に言う発注者はいないかもしれませんが……。下請法に抵触しますし。 取引先が免税事業者よりインボイス事業者がいいと思ってても、制度が始まってすぐに動くことはないでしょう。これまでの信頼関係もありますし、取引先としても、慣れた相手のほうがやりやすいはず。 免税事業者はまず、取引先の様子を見て、インボイス対応が必要そうなら対応する、でいいと思います。インボイス登録も、ギリギリまで引っ張っていい。免税のままで売り上げに影響がないか(受注が減らないか)を見極めた上で、対応を決めるといいと思います。 免税事業者がインボイスに登録して課税事業者になった場合、「仕事が減らない」以外に、何かトクなことはありますか 消費税は、預かった分と支払った分の差額を納税しますから、支払った方が多ければ、還付(返金)を受けることができます。例えば、大きな設備投資をした年など、売上額より仕入額が大きければ、税金が戻ってきます。
登録締切は「3月ではなく9月」 取り消しも可能
10月からインボイス発行事業者になるための申し込み締め切りはいつですか? 9月末です。当初3月末でしたが、9月末まで延長されました。 ただ、9月末は申請が混雑するので、10月1日にインボイス番号発行が間に合わない可能性があります。9月ぐらいまでにインボイス発行事業者になるかを検討して、なると決めたら9月の早い段階までに申請するといいでしょう。 10月1日以降も、インボイス発行事業者申請はできます。23年内は様子を見て、24年1月からインボイス事業者になる、ということもできます。 インボイス発行事業者になった後、取り消すことはできますか? できます。まず、22年9月30日の制度スタート前までなら取り下げる旨の書類を税務署に出せば取り下げられます。10月1日以降は、所定の書類を税務署に提出することで、翌課税期間から(個人事業主なら翌年の1~12月)登録を取りやめることができます。 インボイス登録し、取引先にインボイスを発行した後、登録を取り下げた場合は、取引先に必ず通知しましょう。そうでないと、取引先が、控除できないはずの消費税額を控除対象として誤って計算してしまうことになります。
値上げ要求の機会にも
インボイス対応を機に、取引先に値上げ要求をするのはどうでしょうか? そうですね。給料・人件費アップが叫ばれているご時世ですから「インボイスに対応するので、人件費を上げてほしい」と訴えるのがいいと思います。インボイスに対応する前に交渉するのがポイントです。 値上げ率は、消費税分を上乗せすると良いのではないでしょうか。例えば、これまで税別1万円、税込み1万1000円の報酬をもらっていたとしたら、インボイス対応後はさらに10%上げて1万2100円にする――というイメージです。 私は企業とお話することも多いのですが、余裕のある企業には、取引先の免税事業者がインボイスに対応してくれたら、値上げを提案するようおすすめしています。今はどの業界でも、人件費などの値上げが検討されている時期ですし。 「取引先には当面、インボイス対応を求めない」と表明している企業もあります インボイス制度スタート後3年間は、免税事業者からの仕入税額相当額の80%を控除できる「2割特例」という緩和措置があります。つまり、本来の2割(消費税10%のうち2%)の税負担で済むわけです。 発注側も、2割ぐらいは誤差だと思っているところがありますし、免税事業者は、インボイス制度が始まった後も発注が減らなければ、当面3年間は影響がないでしょう。ただその後の3年間は、控除の割合が80%から50%に下がり、6年後にはゼロになる予定です。 消費税は今後、上がる可能性があります。今は税率10%で、緩和措置もありますから、企業が免税事業者の分をかぶっても負担は小さいかもしれません。ですが、例えば、税率が20%になった時に、免税事業者とインボイス事業者で価格に1割も差があれば、取引先もインボイス事業者を選ぶかもしれません。
税負担は? トクな計算方法選ぼう
インボイス発行事業者になった場合の消費税負担はどれぐらいですか? 「本則課税」「簡易課税」「2割特例」の3種類から選べます。事業者は、最もトクになる税率を選ぶといいでしょう。計算が簡単かつ、多くの業種でトクになるのは「2割特例」です。 本則課税は、預かった消費税と支払った消費税の差額を納税します。売上税額から、仕入れにかかった消費税(インボイス記載分)を、一つ一つ合算して差し引く計算が必要になります。 簡易課税は、年商5000万円以下の事業者が選べる制度で、売上高の50~90%(業種によって異なる)を「みなし仕入率」として、消費税額を計算します。仕入にかかった消費税を一つ一つ計算しなくて良いので、本則より計算が格段に楽になります。ただ、実際の仕入れ額がみなし仕入率より大きい場合は納税額が本則より増えます。 「2割特例」は、免税事業者が課税事業者になった場合に限り、消費税額を売上税額の2割にできる(仕入税額80%と同等)制度です。売り上げに対して仕入が80%を下回る場合は、これを選ぶのが最もトクです。インボイス導入時の「激変緩和措置」として作られたもので、26年9月30日までの3年限定です。
結局、どれがトクなの?
ややこしいですね。私はライターなのですが、どれを選ぶのがよいでしょうか? ライター業の場合は、簡易課税の税率は50%で、仕入率が80%を超えることはあまりないでしょうから、「2割特例」を利用するのが最も有利になるでしょう。売上高が300万円ならその10%の30万円が消費税額。その20%の6万円が納税額です。簡易課税を選んでしまうと、10%の30万円が消費税額。その50%の15万円が納税額と、2割特例の倍以上の税額になってしまいます。 卸売業の場合は、簡易課税のみなし仕入率が90%と高いので、「2割特例」(みなし仕入率80%と同等)より簡易課税がトクです。卸売業以外の業種は、みなし仕入率が80%以上なので、基本的に2割特例がトクになります。 ただ、どの業種でも、売上税額より仕入税額が大きいなら、本則課税がトクになります。消費税の還付(返金)を受けられますから。例えば、開業1年目の飲食店など、売り上げは小さいが、設備投資に大きなお金がかかった場合などです。 注意点としては、2割特例は3年限定であり、簡易課税も将来、なくなる可能性があるということです。消費税の導入当初は、売上高3億円の事業者まで簡易課税を選べましたが、今は5000万円まで下がっています。将来的になくなってもおかしくないでしょう。
「本則課税」は事務作業が大変!
免税事業者がインボイスに対応した場合、事務作業はどれぐらい増えますか 届けを出し、インボイス登録番号の発行を受けた後は、請求書をインボイス対応にします。インボイスには、登録番号を記載したり、税額を別記するといった必要があります。 経費の領収書を取っておくのは従来通りです。2割特例や簡易課税を選べば、経費については個別に消費税を計算する必要はありません。 問題は本則課税です。受け取った領収書から仕入税額を正確に出して、売上税額から差し引く必要があります。仕入先がインボイス発行事業者か、領収書を見て1枚ずつ確認し、インボイス発行事業者ならば、番号が本物かチェックした上で、仕入税額を計上することになります。かなり煩雑です。 事務作業が本当に大変ですよね。 現場の企業や税務署の人もすごく大変ですし、実務的には現場で本当に回しきれるのか疑問ではあります。 例えば、インボイス番号が本物かの確認は、大手企業はやるでしょうが、最初からチェックをしなかったり、少額なら確認しないという会社も出るかもしれません。「チェックはしていないけれど、間違いがあったら税務署で指摘してください」と言い出すかもしれない。取引先が嘘をついてるかどうかまで確認するなんていうことが本当にできるか私たちも戦々恐々です。 韓国や台湾など、10年以上インボイスを運用している国は、仕組みを工夫しています。例えば、専用のインボイス用紙を政府が発行していて、登録事業者しか使えないようにして、インボイス番号の真正性をいちいち確かめる作業を不要にしたり。 台湾は、政府負担でインボイスに宝くじをつけています。お客さんは、インボイスをもらったほうが宝くじがついていてトクだから、レシートを必ずもらおうとします。これにより、事業者がインボイス(レシート)を出さずに売り上げを隠す、といった不正を防いでいます。
「インボイス制度は良くない」
日本では、インボイス反対運動もまだまだ盛んです。10月にインボイス制度が始まらない可能性はありますか? 天変地異でも起ない限り、ないでしょう。 個人的には、今のインボイス制度はあまり良くないと思っています。消費税をしっかり取りたいというのであれば、もっと違う方法があったはずです。 免税事業者を残したままにするから複雑になるんです。インボイス形式とそうでない請求書が混在することになり、現場の負担がぼう大になってしまう。例えば、免税事業者を撤廃する代わりに、税額が年間50万円以下なら消費税の納税を免除し、その額を段階的に下げていくなど、移行期間を設けながら消費税の納税意識を高めていく、といったこともできたはずです。 小規模事業者が有利になる制度(免税事業者制度など)を作ったと言いたい政治家と、税金をもっと取りたい政治家がいて、とても煩雑になってしまいましたよね。
なるほど!!! 皆様ご参考になさってくださいね。ちなみに私は、負担が増えて、納税できますので、幸いです。