さて、推奨睡眠時間に大きな幅があることにお気づきになったでしょうか。推奨内容をより細かく見ると、例えば18~25歳の若年成人では推奨睡眠時間は先に書いたとおりですが、実は6~11時間も「可」としています。つまり、若者にとって許容される睡眠時間には5時間の幅があります。このような大きな幅が設定されたのは、必要睡眠時間には大きな個人差があるからです。ある若者にとっては6時間睡眠でも十分なこともありますが(後述するようにごく稀です)、大多数の若者にとっては不十分で、そのような睡眠習慣を続けていると睡眠負債による心身へのストレスが増大します。すなわちよい睡眠とは言えません。 今回は必要睡眠時間を例に取り上げましたが、睡眠の深さ、レム睡眠とノンレム睡眠の割合、入眠・覚醒時刻(朝型夜型)など睡眠のあらゆるパラメーターには大きな個人差があります。そのために、世界中で使われている睡眠障害の診断基準の教科書では、「睡眠時間は何時間以上」「深い睡眠が睡眠全体の何%以上」などと具体的な数値目標を設定しないことにしているのです。
「よい睡眠」の定義
では、個人にとっての「よい睡眠」とはどのように考えたらよいでしょうか? 現在の睡眠医学では「日中に健やかに過ごすことができる睡眠」が、個人にとってのよい睡眠とされています。よい睡眠とは夜間睡眠で決めるのではなく、日中への影響で決めるということです。起床時の熟眠感がある、日中の眠気、居眠り、倦怠(けんたい)感がない、週末に長い寝だめをしなくても済むなどが目安になるでしょう。 ちなみに厚生労働省が定期的に実施している国民健康栄養調査(2015年)によれば、成人のうちで一日の平均睡眠時間が6時間未満の人が約4割(39.5%)もいました。では、この方々にとってそのような短時間睡眠でも「よい睡眠」であったかというと、答えはNoです。なぜなら、睡眠時間が5時間以上6時間未満の人の8割以上、5時間未満の人に至っては9割以上が、「睡眠が足りない」「睡眠の質に満足できない」「日中に眠い」など問題を抱えていたからです。 ちなみに、睡眠時間が5時間未満の人は成人の8.4%、5時間以上6時間未満の人は31.1%いましたが、この睡眠時間で問題なく過ごせていた人の割合は5時間未満の人では100人当たり0.7人、5時間以上6時間未満の人では100人当たり3.5人しかいませんでした。特に必要睡眠時間が長い若者では、6時間未満で健康に過ごせる人はごくわずかでしょう。「18~64歳の現役世代の成人は7~9時間眠ることが推奨されている」のは妥当だと言えましょう。
三島和夫(みしま・かずお)
秋田大学大学院医学系研究科精神科学講座 教授 1987年、秋田大学医学部卒業。同大助教授、米国バージニア大学時間生物学研究センター研究員、スタンフォード大学睡眠研究センター客員准教授、国立精神・神経医療研究センター睡眠・覚醒障害研究部部長を経て、2018年より現職。日本睡眠学会理事、日本時間生物学会理事。著書に『不眠症治療のパラダイムシフト』(編著、医薬ジャーナル社)、『やってはいけない眠り方』(青春新書プレイブックス)、『8時間睡眠のウソ。日本人の眠り、8つの新常識』(共著、日経BP社)などがある。
なるほど!!! 私は、筋トレに合気道をはじめて、よく寝てますね(笑)
やっぱり体を使うとよく寝れます。