もう25年前の事。公務員の彼は「結婚相談所埼玉」の新規見学相談に1人で訪れた。

父は7年前に急逝し母と二人の生活をしていると言う。彼は43歳で母は79歳だった。

 子供に恵まれなかったが結婚して12年目に授かったこともあり、大切に育てられたと

話してくれた。父も同じ教員で父の背中を見て育った彼は、父を心から尊敬していた。

 学校では勿論の事の事、地元の方からの信頼も厚く多くの方々に頼られる存在であり

どちらかと言うと寡黙の父とは違い、母はお料理が好きな明るい人柄で、専業主婦として

 夫を支え家庭を守り、得意なお料理でお客様をおもてなしするのが大好きだった。

そんな母の人柄が気難しい父への気遣いをやわらげ訪ねて来る方も来易かったらしい。

 彼が36歳と時に父は亡くなり母との二人暮らしが始まった。同僚の多くが結婚をして

子供が生まれて、彼自身も結婚を具体的に考える様になり結婚相談所埼玉を訪れた。

 和やかな中で成婚までの流れと必要書類のお渡しをして、翌週彼からの電話が入った。

結婚を考えていることを母に話すと「人に気を遣うのはイヤだから自分が死んでからに

 してほしい」と言われたと切なそうに話した。母に言われた言葉を噛みしめて彼なりに

婚活はしないと決めた。彼の言葉の中にやり切れぬ思いも感じたが結婚の夢は消えた。

 風の噂でお母様逝去の報が伝わったのは、それから15年は過ぎていたと思う。

時々通る道すがら、植木の手入れをしている彼の後ろ姿に生きて来た年輪が伺えた。t