図1: 恒星TOI-5205の手前を横切る惑星TOI-5205bの想像図
恒星は質量が小さいものほど、宇宙に多く存在します。軽い恒星は表面温度が低く、可視光線の赤色の光を多く出していることから「赤色矮星」と呼ばれています。赤色矮星は数そのものが多いので、赤色矮星を公転する太陽系外惑星も多く発見されています。しかし、赤色矮星を公転する太陽系外惑星は質量が小さい傾向にあり、特に木星に匹敵する「巨大ガス惑星」は発見されていませんでした。 赤色矮星で巨大ガス惑星が見つからないのは、恒星や惑星の形成過程と関連があるからだと考えられます。宇宙に存在する塵やガスは、重力によって互いに引き寄せられていき、高密度な部分に物質が集中していきます。最も物質が集中した場所では、やがて恒星が誕生します。そして、恒星が誕生する部分を中心として周囲の物質が集まり、回転する円盤を形成します。この円盤では局所的に物質が集中して、無数の微惑星が誕生します。微惑星同士は合体して惑星になると同時に、周囲のガスを集めて大気をまとうようになります。 円盤の中心に恒星が誕生すると、恒星からの放射によって円盤を構成する塵やガスを外側へと押しやる力が生まれるため、惑星本体や大気が成長する時間には制限があります。また、円盤全体の質量が小さいほど、恒星や惑星の材料が少ないということになるため、誕生する恒星や惑星も小さくなる傾向にあります。現在の惑星形成に関する理論では、木星程度の巨大ガス惑星が誕生するには、地球の10倍程度の質量を持つ岩石惑星が誕生し、大気としてまとうのに十分な質量のガスと時間が必要だと考えられています。赤色矮星の形成過程では、そのどちらも満たされないとこれまでは考えられていました。
図2: TOI-5205(左上)とTOI-5205b(左下)、太陽 (右上) と木星 (右下) のそれぞれの大きさの比較。TOI-5205bと木星は大きさがほぼ同じであるため、太陽よりも小さな恒星であるTOI-5205に対する比率は相対的に大きくなる
カーネギー研究所のShubham Kanodia氏らの研究チームは、「TOI-5205」という赤色矮星を調査し、新たに太陽系外惑星「TOI-5205b」を発見しました。TOI-5205はNASA (アメリカ航空宇宙局) の「トランジット系外惑星探索衛星(TESS)」によって惑星が存在する恒星の候補として最初にリストアップされ、その後に行われた地上からの観測により存在が確実となりました。 驚くべきはそのサイズです。惑星であるTOI-5205bの大きさは、直径も質量もほぼ木星と同じであると推定されています。一方で、TOI-5205bが公転する恒星のTOI-5205は、直径も質量も太陽の約40%という小さな星であり、TOI-5205に対するTOI-5205bの直径は約27%に達します。太陽に対する木星の直径が約10%に過ぎないことを考えれば、その巨大さが分かるでしょう。このため、TOI-5205bがTOI-5205の手前を横切ると、地球に届くTOI-5205の光は約7%が遮断されます。 直径よりも問題なのは質量比です。TOI-5205に対するTOI-5205bの質量比は約0.3%であり、太陽に対する木星の質量比である約0.1%よりもずっと大きな値です。実際、この値は赤色矮星で見つかった惑星としては最も大きな値です。このような惑星の存在は、従来の惑星形成論では予想されていません。TOI-5205の金属量 (※) からも、例外的に大きな惑星が形成される可能性は今のところありません。このため、TOI-5205bの存在は、現在の惑星形成に関する理解に疑問を投げかけることになります。 ※…惑星科学における「金属」とは、水素とヘリウム以外の全ての元素を指します。金属量の多い恒星であれば、それだけ惑星の材料となるケイ素や鉄などの重い元素が多く存在することを意味します。しかし、TOI-5205の金属量は太陽とほぼ同様であるため、惑星が特別に形成されやすい条件を備えているわけではありません。 一方で、TOI-5205bはTOI-5205を横切る際に大きな減光をもたらします。この時、恒星の光の一部が惑星の大気を通過するため、この光を分析すればTOI-5205bの正確な大気組成が判明します。これは、惑星形成に関する大きな手掛かりとなるでしょう。地上と宇宙の両面で、TOI-5205bの追加観測が期待されます。
まだまだ、わからないことは、いっぱいでしょうね!!!
宇宙は、ひろいです(笑)